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私のオフィスで毛髪分析をされた方のレポートを見て、砒素が異常に高値を示していたので驚いたことがあります。その方のお住まいは京都の北花山という山の麓にあります。自然に囲まれ羨ましい環境なのですが、その方は「虫が大の苦手」ということで、毎日毎日、大量の殺虫剤を家の周りに撒かれていたようです。どうやら毛髪から砒素が高値に検出されていたことと関係なくはなさそうです。今回は身のまわりに潜む砒素についてのお話です。

〜 anjuu アンジュー 〜

● ナポレオンも砒素で暗殺

砒(ひ)素は、有害ミネラルに数えられる元素です。砒素は13世紀頃に発見され、発見当初からその毒性と、医療効果の面が注目されてきました。

ルネッサンス期のイタリアで毒殺を次々と起こしたボリジア家で用いられていた毒が砒素でした。そのように、砒素はしばしば歴史上で、暗殺の毒薬として登場します。

ナポレオン1世は皇帝の座を追われた後、セントヘレナ島に流刑され、そこで病死したことになっていましたが、死んだ彼の毛髪から検出された砒素は、通常人の毛髪に含まれる10もの濃度に達していました。そこで、ナポレオンの死因の一つとして、砒素による毒殺が考えられてきました。

わが国では昭和30年に、砒素化合物である亜砒酸(あひさん)が調整粉乳に混入する砒素ミルク事件が起こりました。そして、岡山を中心にして、12,131人 の患児と130人の死者を出す、世界最大の化学性中毒事故になってしまったのです。

原因になった亜砒酸は、医薬品、工業用、殺鼠剤、除草剤に用いられています。 成人が5〜50mgの亜砒酸を摂取すると胃腸炎(悪寒、嘔吐、腹痛、下痢)や神経系の麻痺が起こり、100〜300mgの摂取で死に至らしめる猛毒です。

砒素ミルク中毒事件では、2〜5mgの砒素を摂取した幼児に中毒症状が現れ、胃腸や皮膚、腎臓、神経などに障害が起きました。

● 井戸水からの中毒が多い

職業的に砒素を取り扱う仕事の就業者に、肝臓や皮膚、肺などのガンが起こるリスクが高くなります。
砒素が発ガン性を起こすケースは、空気を介す場合と、水を介す場合の二通りに分けられます。水から砒素の汚染を受けるケースでは、しばしば黒皮症になることがあります。黒皮症は皮膚が黒くなり、疲労や倦怠感、めまい、息切れ、腹痛、嘔吐などの症状が起こり、また貧血や白血球減少が認められると報告されています。

台湾の南西部沿岸に古くからあった風土病の烏脚病は、黒皮症の典型的な症状を示 していました。その原因は、住民が飲む井戸水中の砒素にあり、その井戸水には0.3〜0.8PPMの砒素が含まれていました。砒素に汚染された水による被害は各地域でみられています。アルゼンチンのある地域では飲料水に高濃度の砒素が含まれるため、甲状腺腫の多発が起こりました。砒素はヨウ素と拮抗し、甲状腺ホルモンの代謝を妨げる性質があります。

わが国では砒素の水質基準を0.01PPMに決めていますが、環境汚染からじわじわと水が汚染されています。
1995年の2月に、広島市の南区にある出島東公園から、土壌汚染環境基準の350倍にも及ぶ砒素化合物が検出されました。その砒素化合物はジフェニルアラシン酸といい、戦時中に竹原市の大久野島毒ガス工場で生産された催涙ガスの中間原料でした。それをドラム缶にいれて、公園の埋立地に埋設処理したものが漏れ出してきたのです。

また工場地帯の大気中でのベンゼンや砒素など8種類の発ガン性物質の濃度は、欧米で決められている基準の1200倍にも達すると、環境庁が報告しています。
それらの事実と、疾病との関わりについては今のところ不明です。しかし、1994年度の京都市での地下水水質測定でテトラクロロエチレンや砒素が検出され、その影響で廃業に追い込まれた豆腐や漬物などの食品業者が増えているとのことです。現代は、環境汚染物質に包囲され、安全に住めるところ、安全に飲める水、安全に食べられる食べ物がじわじわと少なくなってきている時代であるといえるのです。

● 海産物に含まれる砒素は無害

このように砒素は有毒であるものの、微量の砒素は人体に必須の役割があるのではないかという説があります。1975年にアメリカのニールセンが行った実験では、砒素欠乏食を与えられたネズミに成長の遅れ、貧血になるなどの症状が現れました。微量の砒素は、生物の成長のために必要ではないかと考えられています。

砒素が持つ毒性の度合いは、化合物としてどのような形態をとっているかにより、著しく異なります。
亜砒酸塩など無機の砒素には硫黄原子との強い化学的親和性があり、硫黄が受け持つSH酵素の活性点と結合して、その酵素の機能を破壊してしまうのです。細胞呼吸の反応のために必要なSH酵素が機能しなくなることにより、神経中枢が影響を受けて、麻痺などの症状が現れ始めます。

貝やクルマエビ、海藻には、乾燥重量にして100PPM以上の高濃度の砒素が含まれています。しかし、それらの海産物を食べても砒素中毒にならないのは、海産物に含まれる有機砒素化合物は無害であるからです。有機化合物中の砒素は炭素と化学的に強く結びつき、500度までの熱に耐えることができるほど安定しているため、酵素と反応することがありません。 そのため海産物からとる砒素は無害といえますが、砒素を含んだ殺虫剤や農薬に汚染された 動物の肉や農産物、果物(特にブドウ)に含まれる砒素は有害な可能性があります。

● 砒素の解毒

毛髪分析を受け人の約30%から、砒素が高値で検出されます。無害な有機砒素の摂取が多いか、有害な無機の砒素の汚染を受けているかに関わらず、砒素を排出されたい方には次の栄養素の摂取が勧められます。

・ セレニウム
砒素は、セレニウムを同時に摂取すると排泄が速くなり、臓器内に留まる時間が短くなる結果、毒性が緩和されます。砒素とセレニウムは同族元素であり、互いに化学的性質に類似点があるので拮抗作用があります。

・ 硫黄化合物
砒素によって、硫黄の酵素としての働きが阻害されます。そのため硫黄を多く含むにんにく、玉ねぎ、にらなどを食べることが勧められます。それらの野菜には、セレニウムも豊富です。

・ ビタミンC
砒素を含有した「サルバルサン」という薬剤が、以前、梅毒の治療に用いられていました。しかし、その強い副作用のために死亡者もででおり、その患者の血液ではビタミンCの濃度が低下していることがわかりました。ビタミンCが不足していると砒素の毒性が強く発現し、ビタミンCを投与すると砒素の毒性が防がれることが動物実験でも証明されています。

・食物繊維と乳酸菌
有害ミネラルが体内に溜る原因の一つは、有害物を排泄する腸などの機能が低下していることです。食物繊維や乳酸菌を含む食品の量を増やして、腸が常にきれいな状態に保たれるようにしましょう。

(杏林予防医学ニュース)