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「小麦粉加工食品について」

・パンでは生きられなかったアイヌの人々

 ギリシャの歴史家ヘロトドスが古代エジプト人を「パンを食べる人」と記述したように、発酵したパンを発明したのはエジプト人でした。エジプト人は神獣を型どったさまざまな形のパンを作り、死後の世界でも使えるようにと、死者の埋葬時にピラミッドに入れたと伝えられています。

 キリスト教の教えにも、キリストの体はパン、血はワインであると記されています。日本で稲を祭るように、西洋ではパンは大地の恵みの象徴でしたが、一方でパンでは生きるための栄養を満たすことのできない人々がいました。パンに含まれる小麦のアミノ酸スコアは非常に低いので、豆を足すだけではアミノ酸スコアを完全にすることができず、動物性タンパク質を補う必要があるのです。

 丸元淑生著「生命の鎖」によると、明治時代のアイヌの人々は日本人よりもロシア人に好意を持っていたにも関わらず、米を食べるために日本人に隷属したと書かれています。なぜならアイヌの人々は、ロシアのパンでは健康を維持することができなかったからです。

NHKの歴史番組でも放映されていましたが、アイヌ人は(現在の価格で)約9千円分の米を得るために、魚介類を中心として100万円相当の物品を日本人に差し出していたのです。

 アイヌ人は鳥獣や魚介類など動物性タンパク質を手に入れることができたはずです。しかし、タンパク質の問題をクリアーしても小麦のパンでは体を養うことのできなかった何かの理由があったのです。

・楽しみと祭祀のためのお菓子

 人が食べることで精一杯だった時代が過ぎ、紀元前2世紀末のギリシャでは文学や劇、音楽などの文化やスポーツを楽しむ余裕が生まれました。そして、食べることでも楽しみが求められ、小麦粉を材料にしたお菓子が作られるようになりました。おそらく最初のお菓子は堅焼きしたクッキーに蜂蜜などで味付した素朴なものだったのでしょうが、後にケーキやスコーン、ビスケット、パイなどさまざまな種類のお菓子に多様化するきっかけになりました。

 ローマ時代には花嫁の幸せを祈って、結婚式にポロポロと崩したケーキを花嫁の頭に振りかける習慣がありました。現在でもその風習から結婚式にウェディング・ケーキが飾られ、出席者に配られます。

 中世にはクリスマスなど宗教的行事に付随して、ヨーロッパ各国でケーキや菓子パンが作られました。そして、フランス王政期にはヴェルサイユ宮廷内でケーキなどのお菓子が“食べる芸術”と言えるまでの隆盛を極めました。貴族がソフトなケーキを口にする一方で、軍隊ではハードなビスケットが携帯食として用いられました。

 水分の加減を変えたり、卵や牛乳、油脂などの材料を練りこむことができるなど小麦粉ほど応用の効く食品を他に見ることができません。イタリアのピザ、中国の点心、日本のお好み焼きなども具と一緒に調理することにより、立派な食事になります。小麦粉食品は実に多様であり、たこ焼きのようなかなり独特の食べ物もあります。

・お菓子は嗜好食品

小麦粉加工食品の利点として、英語でいうとボーダブルな、つまり携帯性が上げられます。日本にも“おにぎり”がありますが、それと比較しても小麦粉を焼いた食品は形が崩れることがなく、保存性においてはるかに優れます。行儀が悪く映るかもしれませんが、パンやクッキーを片手に食事しながらパソコンで仕事をすることも可能です。

 悪い面から見ると、市販の小麦粉加工食品にはかなりの量の食品添加物が含まれていることがあります。お菓子系統のものは砂糖やクリームなどでカロリーが高く、卵や牛乳などアレルギー症状を誘発したり、悪化する成分が含まれています。

 貝原益軒は「養成訓」の中に、料理を一口食べても味を知ることができる。むさぼると体を損なうので、一口食べて味を楽しむことが賢いと記しています。クリスマスや復活祭などのお祭りや祝い事のときにお菓子を食べる習慣が生まれたように、健康に問題のない人が時々、一口程度のお菓子の楽しみのために食べるのなら問題は少ないでしょう。

 マリー・アントワネットは「パンがないと(民衆が)言うのなら、ケーキを食べればよいではありませんか。」と言いました。この言葉は彼女の無知や楽観的な性格を物語っていますが、今の日本では豊かさや手軽さのためお菓子をむさぼるように食べ、食事の代わりにまでする人がいます。その結果、糖尿病や高血圧症、肥満の誘引となり、また精神状態にまで影響を及ぼしているのです。

小麦を使ったお菓子の種類と特徴

クッキー[cookie]小麦粉に牛乳、卵、砂糖、油脂、香料などを混ぜ、焼いた乾燥菓子。

クッキーはアメリカ式の名称で、イギリスのビスケット、フラン

スのサブレとほぼ同じもの。ビスケットに比べて脂肪が多い。

ビスケット[biscuit]小麦粉に油脂、卵、砂糖、牛乳、膨化剤、香料などを加えて焼いた

乾燥菓子。ローマ時代からあり、二度焼いたため貯蔵が効き、携

帯に便利なので、海軍また船員の食料として特にイギリスで普及

した。

ケーキ[cake]小麦粉を主体に卵、牛乳、砂糖、香料などを加えて焼いた洋菓子の

総称。パウンドケーキ、パンケーキ、チーズケーキなど、作り方

や用いる材料により無数の名称がある。 

・日本人は麺類が好き

 食事の代わりになる小麦粉食品として、麺類が広く食べられています。日本人は世界で最も麺類が好きな民族といえます。麺類の代表的なものとして、イタリアのパスタ、中国のラーメン、日本のうどんなどがあげられます。

ラーメン

現在私たちが食べているラーメンは中国のものではなく、完全に日本の食品といえます。札幌ラーメン、九州ラーメンなど地方ごとにさまざまな種類に多様化し、同じ地域でも店によって味に特色があります。健康上の問題からラーメンを食べない人がいても、本質的にラーメンが嫌いな人は少ないようです。

 ラーメンの麺の黄色い色は、かん水を加えてフラボノイド系色素に作用させることによって生まれます。またかん水を混ぜることによって小麦粉に含まれるグルテン質に変性が起こり、こしが出て、風味もよくなります。

 かん水は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸二ナトリウムなどの一種、またはそれらを混合したものを主成分にしています。現在では合成されたかん水が使われており、そのほとんどはリン酸塩を主成分としたものです。よって、カルシウム欠乏時にラーメンを食べる頻度が高いと、カルシウム代謝に異常が生じるおそれがあります。

 また、ラーメンの汁にはかなりの食塩が含まれており、具によほど野菜を入れない限りナトリウム‐カリウムのバランスが乱され、高血圧や胃の病気を悪化させるかもしれません。

 スープにラードが含まれるなど高脂肪ということもあり、頻繁に食べるにはラーメンは大変に偏った食品です。お気に入りのラーメンも、月に1、2回にとどめましょう。

 また、インスタントラーメンやカップ麺も実にさまざまな種類が売られていますが、食品添加物の問題に加えて、熱湯などによってカップ容器からスチレンなどの環境ホルモンが溶け出しているかもしれません。カップ麺などは、大地震の災害に備えての非常食として扱いましょう。

パスタ

 イタリアで食べられるスパゲティやマカロニを総称したものがパスタです。形状や成分から数百種類に分類され、そのリストだけでもこのページを埋めてしまうことになるでしょう。

 デュラム小麦のセモリナなどグルテン含有量の高い小麦粉を水で練り、型から押し出してパスタの形が整えられます。型によって、さまざまな形のパスタを作ることができます。そして、30時間かけて乾燥して作られたパスタの保存性は極めて優れたものなのです。

 一般的には、塩を加えた湯でパスタを10〜20分間ゆでて、好みのソースをかけて食されます。イタリアの最もスタンダードなソースは、オリーブ油でにんにくとトマトを炒めたものです。ミートソースやクリームソース、あるいは卵を使った“カルボナーラ”のような高カロリーのものもありますが、野菜類と魚介類、オリーブ油を組み合わせればパスタは健康によい料理です。

 ラーメンと同様にスパゲティもまた、梅干しやしそ、納豆、明太子など日本流のアレンジが加えられています。品質のよいデュラム小麦で作られたスパゲティを常備しておいて、時折食べるのは気分を変える意味でもいいと思います。

 全粒粉のスパゲティもあり、もちろん白小麦粉のものよりも栄養成分的に優れています。ただ、茶色でざらざらしていて「こし」がなく、通常のスパゲティのような滑らかさが味わえません。

 また、麺にほうれん草などを練りこんだ「スピナッチ」のような緑色のパスタがあります。(アレルギーがなければ、)数種類のキノコにスキムミルクを溶いて加熱したソースがこのパスタにはあいそうです。

パスタの分類

総称       名称       形状

長形       マカロニ     太く管状のもの

         スパゲティ    マカロニより細く管状か棒状

         パーミセリィ   スパゲティより細く棒状

         ヌードル     リボン状

短形       エルボウ     三日月形

         シェル      貝殻状

         ホイール     車輪状

         アルファベット  文字状

うどん

うどんは小麦粉を塩水でこねて薄く伸ばし、細長く切ったものです。たっぷりした湯でゆでてから、かつおや昆布の出汁としょうゆのつゆを注ぎ、ねぎや好みの具(油揚げ、卵、野菜類)を乗せる食べ方が一般的です。

 平たい形をしたものを「きしめん」、もっとも細いものを「素面(そうめん)」、次に細いものを「冷麦」といいますが、栄養成分はほとんど同じです。うどんもまたつるつるとした喉越しに人気のある食べ物で、奈良時代にそのもとになる食べ方が中国から伝わってきたそうです。

 冬の時期に、具をたくさんいれた味噌煮込みうどんや鍋焼きうどんを食べると体が温まります。しかし、夏の時期に、つけ麺で食べる素麺や冷麦、冷やしうどんを食べる機会が多いとタンパク質不足になりやすく、夏ばてしてしまう可能性があります。やはり毎日食べるには適さないものです。

そば

蕎麦(そば)は、寒冷地あるいは山岳地帯で栽培される植物です。その種を荒らびきして外皮を除き、製粉してそば粉が得られます。そば粉には小麦粉よりも多くのタンパク質が含まれます。アミノ酸の割合から見るとリジンが多く、メチオニンが制限アミノ酸であるという特徴があります。またルチンといって、毛細血管の透過性を調節する働きのあるフラボノイド化合物が含まれます。

 そばは未精製の穀物なので、精白した小麦粉に比べてマグネシウムなどのミネラルやビタミン類が豊富に含まれます。繊維も豊富です。

 日本では来年の幸運を祈るために、大晦日に「年越しそば」を食べます。また引越ししたときには「おそばにいさせて」という意味で近所の人に「引越しそば」を配ります。アメリカではそばをパンケーキにして食べます。

 しかし、そばのタンパク質には粘性が乏しくて切れやすいため、そば粉20、小麦粉80くらいの割合で作られていることがほとんどです。小麦粉を加えるとグルテン質がつなぎの役割をして、麺にこしを与えます。ゆえにそば屋ででだされるそばの大半は「細いうどん」です。そば粉の割合の多い「八割そば」、または「十割そば」などが乾麺の形で売られています。常備しておいて、味噌汁の具にしたり、納豆や長いもをかけてとろろそばにするとよいでしょう。

・小麦とグルテン不耐症

また、小麦を加工した食品に麩(ふ)があり、わが国では奈良時代から食べられています。小麦粉に水と食塩を加えてこね、十分粘りの出たものを布袋にいれ水中ででんぷんをもみ出すと、ゴム状のもちもちとした感触のグルテン質が分離されます。これにもち粉を加えて蒸したものが「生麩」、少量のでんぷんと膨張剤を加えて焼いたものを「焼き麩」といいます。

 麩にはタンパク質が豊富に含まれ(生麩で12.7/100グラム)、鍋物や煮物にして食されます。

 このように小麦粉がさまざまな食品に生まれ変わるのは、グルテン質という特異な性質を持つからです。米やコーン、大麦など、小麦以外の穀物を利用しても、麺類やパン、まんじゅうを作ることができません。

 しかし、そのグルテンが体に悪い影響を与えるケースがあります。グルテンを効果的に代謝できないグルテン不耐症は、しばしばスプルーという病気に関連します。スプルーを熱帯性下痢ともいい、感染により腹部膨満や食欲不振にともない、泥状、または水状の下痢便などの症状が起こる熱帯地方によく見られる病気です。しかし、熱帯地方以外で起こる場合、非熱帯性スプルー、あるいは小児脂肪便症といいます。

 スプルーは、小腸粘膜の傷害をきっかけに起こります。グルテン不耐性だと、組織構造の固いグルテンに小腸内膜の絨毛が刺激され、サンドペーパーがかけられたように削られて、絨毛が短くなります。絨毛のひだは栄養素を吸収するのに必要な働きがあるので、タンパク質やビタミン、ミネラルなど多くの栄養素の吸収が損なわれます。

 また便が脂肪便になり、必須脂肪酸や脂溶性ビタミンの吸収障害が起こります。それにより吸収不全症候群が生じ、筋肉のけいれんや吐き気、貧血などさまざまな栄養欠乏症が現れる可能性があります。

 また食物の分解が不完全なことでアレルギー症状が起こったり、下痢によって水分やカルシウムなどのミネラルが失われたりもします。

 この病気の治療法として、グルテンを含むすべての食物、とりわけ小麦食品を全面的に排除することが上げられます。しかし、グルテンに過敏な体質でなくとも、葉酸とビタミンB6の欠乏、ストレス、腸の感染などの要因が重なると腸壁に変化が起こり、吸収不全が生じる可能性があるので、小麦粉食品の過食は好ましくないということになります。

 輸入の強力粉で作られた小麦粉食品には、国産の小麦粉よりも多くグルテンが含まれています。パスタやうどん、全粒粉のパンも具や副食との組み合わせによって健康的になりますが、続けて食べることは好ましくありません。基本をお米のご飯において、間隔を開けて食べることがベターであると思われます。また、知らず知らずのうちに食べてしまうスナック菓子などの小麦粉食品にも気をつけることです。

 特に乳幼児や、過敏性腸症候群のように下痢を繰り返す人は、一度小麦粉系加工食品の摂取を制限してみてはいかがでしょうか。アイヌの人々が小麦のパンでは健康を維持できなかったのは、もしかすると、彼らがグルテンを代謝する酵素の活性が弱かったせいかもしれません。

杏林予防医学研究所 予防医学ニュースより