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不飽和脂肪酸の働きについて-不飽和脂肪酸が不足すると、細胞膜の保護が出来なくなり、老廃物を排出したり、細胞が正常に分化するために必要な代謝が不活性になり、脱毛、湿疹、爪の異常、ふけ、炎症、乾燥肌など皮膚のトラブルが現れます。

不飽和脂肪酸の働き

【脂肪酸の種類】

脂肪とは水に溶けず有機溶剤に溶け、体のエネルギーになる栄養素です。炭水化物とタンパク質が体内で1グラムが4カロリーに変換されるのに対し、脂肪はその倍以上の9カロリーを体にもたらします。脂肪にはエネルギー源になる他、ビタミンA、D、E、Kなど脂溶性ビタミンの利用に必要です。また、細胞膜の構成物質として臓器や組織を護り、体熱を保持するなどの働きもあります。

 脂肪は、炭素原子(C)、水素原子(H)、酸素原子(O)が結合した分子の脂肪酸とグリセリンから構成されています。体内の脂質は90%以上が中性脂肪として存在し、それ以外の脂質としてコレステロールやリン脂質(レシチンなど)があります。

 脂肪酸には常温で固体の飽和脂肪酸と、常温で液体の不飽和脂肪酸の二つのタイプがあります。飽和脂肪酸の構造は、炭素原子が目一杯に水素と結合した飽和状態にあり、牛肉、豚肉、牛乳、バターなど動物性の食品に高い割合で含まれ、植物では例外としては椰子油に多く含まれています。

 不飽和脂肪酸の構造中では、炭素が水素と結合していない箇所があり、その余った箇所で炭素同士が2重に結合しています。その炭素の2重結合が一箇所だと「単価不飽和脂肪酸」、二箇所以上だと「多価不飽和脂肪酸」といい、脂肪の性質はその種類によって大きく異なることになります。

 不飽和脂肪酸の供給源になる食品は、植物油か、あるいは魚介類です。単価不飽和脂肪酸のオレイン酸はオリーブ油に多く含まれています。多価不飽和脂肪酸には、リノール酸、α(アルファ)−リノレン酸、アラキドン酸があり、生体内で必須の生理作用があり、人体で合成できないので、総称して必須脂肪酸、あるいはビタミンFと呼ばれています。

 いわしなどの青魚に含まれているエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサヘン酸(DHA)も多価不飽和脂肪酸の種類ですが、α−リノレン酸が十分に摂取されていると体内で合成できるので、必須脂肪酸には加えられません。

【オメガ6とオメガ3】

 リノール酸やα−リノレン酸など不飽和脂肪酸は生体内で代謝された結果、エイコサノイドという局部ホルモンになり、さまざまな重要な生理作用を行います。ホルモンが副腎や脳下垂体など特有器官から産出されるのに対して、エイコサノイドは細胞の全ての箇所において必要に応じて発生します。エイコサノイドには、プロスタグランディン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどの種類があります。

 エイコサノイドは、血小板の凝集と凝固、血管の収縮と弛緩、傷の治癒など、生体内で異変が起きたときに体を正常に戻そうとする働きがあります。

 脂肪酸の研究が本格的にされるようになったのは、高脂肪食の欧米人よりもさらに大量の脂質を摂取しているエスキモー人に心筋梗塞など循環器系の疾患が少ないことがきっかけでした。そこでエスキモー人が日常食べている魚やあざらしに含まれているオメガ3系のエイコサペンタエン酸について研究されるようになりました。研究の結果、エイコサペンタエン酸から作られるエイコサノイドは血管の内側を覆っている内皮細胞から分泌され、血小板を固まりにくくし、血管を広げる作用があることがわかり、エスキモー人が白人と比較して、血中コレステロール値や中性脂肪値が低く、心筋梗塞になりにくいことの説明がつけられるようになりました。

 亜麻仁(あまに)油、大豆など豆類、冬野菜に含まれるα−リノレン酸も体内でエイコサペンタエン酸に代謝されるので、同じ効果が期待できます。

 問題として、リノール酸系(オメガ6)とα−リノレン酸系(オメガ3)から産出されたエイコサノイドは代謝経路において互いに同じ酵素を必要とし、また働きが相反するので、その摂取バランスが崩れると一方が十分に機能できなくなることがあります。

 以前の栄養学では、リノール酸が十分にとられているのであれば、γ(ガンマ)−リノレン酸やアラキドン酸に代謝されるので心配要らないといわれていました。また、リノール酸は血液中のコレステロールを下げるというので、紅花油やコーン油などの植物油や、水素添加されたマーガリンの摂取が奨励されてきたりもしました。

 しかし、α−リノレン酸やエイコサペンタエン酸などオメガ3系の脂肪酸の摂取不足が続き、揚げ物やドレッシングなどから大量にリノール酸系の脂肪酸を摂取すれば、リノール酸はアラキドン酸に代謝された後、強力な血小板凝集作用があるトロンボキサンA2や炎症の原因になるロイトコリエン4が過剰に各細胞で生成されることになります。

 そうすると、善玉コレステロールといわれるHDLコレステロール値の低下、過酸化物の発生促進、炎症の悪化などが生じ、動脈硬化、血栓症、関節炎、胆石、ガンなどの疾患の原因になる可能性が強くなってきます。

 現在幼児の3人に1人がそうだと言われているアトピー性皮膚炎は、生活環境でのアレルゲンの増加とともに、脂肪酸の摂取バランスの乱れが原因の一つであることが指摘されています。アレルギー反応は、食品中のタンパク質(卵、牛乳、大豆など)、ダニ、ハウスダスト、花粉やその他の異物に対して抗原が以上に発生している状態です。異物が呼吸器、消化器、皮膚などから侵入して来ると、それらの粘膜の肥満細胞にある抗体の免疫グロブリンと結合し、ヒスタミンやロイトコリエンなどの化学物質が放出され、くしゃみ、鼻づまり、喘息、湿疹などの症状が発現します。

 オメガ6脂肪酸から作られるタイプのロイトコリエンは、反応性が強く炎症を悪化させ、オメガ3系はその作用を遮断しようとするので、アレルギー患者にはオメガ6が含まれる植物油の摂取を減らし、オメガ3をとることが勧められるのです。

 オメガ3系と6系のバランスのいい摂取は、病気を予防する上で重要です。日本の伝統的な食生活では、リノール酸は種子や米から、α−リノレン酸は冬野菜や豆類から微量に、また、EPAやDHAが青魚からとられ、最適なバランスが維持されていました。脂肪から得られるカロリーを1日の総摂取カロリーの20%以内にとどめ、その内の約半分が不飽和脂肪酸だと理想的です。

【欠乏症】

 食物から摂取された脂肪は胃と小腸で作られる酵素の働きで分解され、さらに胆嚢から分泌される胆汁によって細かい粒子にされた後、小腸で吸収されます。膵臓からはリパーゼという脂肪消化酵素が分泌され、脂肪は脂肪酸とグリセロールに分解され、消化が終わります。脂肪酸はそれ以上に分解されることはないので、リノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸など、食物からとられたそのままの形態で体に吸収されます。ですから肉を食べている人は体に飽和脂肪が多く、魚を良く食べている人はオメガ3系の不飽和脂肪酸が多いことになります。

 不飽和脂肪酸は肝臓に運ばれ、そこでストックされて通常はエネルギー源として利用されます。エネルギー源として利用されない脂肪酸はリンパ系に運ばれ、最終的に血液に入り、循環器系、前立腺、脳、腎臓などでエイコサノイドとして働くことになります。

 脂肪の吸収は、胃酸や胆汁の分泌が減少したときに悪くなります。また、不飽和脂肪酸の代謝が阻害される要因として、次のようなものがあります。

 ・亜鉛、マグネシウム、ビタミンB6などの脂肪酸の代謝に必要な栄養素の不足

 ・飽和脂肪酸の摂取量が必須脂肪酸のそれを大きく上回ること

 ・水素添加されたマーガリンなどの取りすぎ

 ・アルコールの多飲

 ・有害な化学物質の体内への蓄積

 それらの要因により、細胞内の代謝と酵素の機能が影響を受け、さまざまな異常が現れるようになります。

 不飽和脂肪酸が不足すると、細胞膜の保護が出来なくなり、老廃物を排出したり、細胞が正常に分化するために必要な代謝が不活性になり、脱毛、湿疹、爪の異常、ふけ、炎症、乾燥肌など皮膚のトラブルが現れます。

 さらにコレステロールの代謝が円滑に進まなくなるので、心臓など循環器系に異常が生じ、動脈硬化、高血圧、狭心病、心臓病などの疾患が発症する可能性が強くなります。

 また、不飽和脂肪酸の欠乏は、腎臓病、胆石、感染症、成長不良などの病気に関連します。

 アレルギーの原因として、オメガ3に対してオメガ6を摂り過ぎることの他に、リノール酸のγ−リノレン酸への変換が阻害されることがあります。γ−リノレン酸はプロスタグランディンE2に変えられ、ヒスタミンの放出を抑えて、アレルギーによる炎症を軽減すると考えられています。

 脂肪酸摂取とアレルギーはこのように密接な関係にあるので、アメリカではアトピー性皮膚炎の患者の脂肪酸分析を行い、γ−リノレン酸の不足が認められれば、それが豊富に含まれた月見草油が投与されるそうです。オメガ3系の脂肪酸の不足が認められれば、亜麻仁油やEPAが投与されます。

 「豊かさの栄養学」(丸元淑生著・新潮文庫)によると、1990年にイタリアのフィレンツェで開かれた「栄養生化学療法ルネッサンス・シンポジウム」で、栄養療法の権威の討議により、不飽和脂肪酸について次の見解に一致が見られたそうです。

  • 患者によってオメガ3系の脂肪酸が必要な人もオメガ6系の脂肪酸が必要な人もいるが、割合でいくとオメガ3系を必要としている人が多い。
  • 月見草油を与えるときは、その代謝に必要な亜鉛やビタミンB6を一緒に与える。
  • オメガ3は酸化されやすいので、投与の時にはビタミンEやセレニウムなどの抗酸化栄養素を一緒に与える。
  • α−リノレン酸などオメガ3系の油は、決して加熱調理には使わない。

 不飽和脂肪酸は酸化されやすいので体内で活性酸素の標的になり、アレルギーを悪化させたり、ガンや老化の原因になるという研究者もいます。しかし、名古屋市大の奥本教授らの脂質生化学の最新の研究では、オメガ3系の脂肪酸は体内で自ら酸化されることで逆に活性酸素の発生を抑え、細胞膜の脂質の酸化を防ぐ働きがあることが明らかにされました。

 日本人は欧米人に比べ「伝統的な食生活」によって適切なバランスを保って脂肪酸を摂取していましたが、洋食や加工食品をとる機会が増えるとともに、除々に体内の脂肪酸バランスが損なわれ、母乳中のγ−リノレン酸とドコサヘキサエン酸が不足したことがアレルギー性疾患が急増した原因の一つといえるでしょう。q

 また、青魚に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)は細胞膜のリン脂質に存在し、脳細胞が分裂し増加していくために必要です。そのため、妊婦がDHAをを不足すると、胎児の脳細胞を作るリン脂質が十分にできず、最悪の場合は死産や流産、また先天性精神薄弱児などの危険性が高くなります。そのため妊娠中は週2、3回はDHAが多く含まれた新鮮な青魚を食べることが勧められます。

 動物実験でオメガ3をとらせたネズミはオメガ6をとらせたネズミよりも学習能力が向上し、DHAは幼児の脳の成長に必要なことが確かめられましたが、出産後も母乳からDHAを幼児に与えるために、牛肉や豚肉に含まれる飽和脂肪酸や植物油を過度に摂取しないようにし、オメガ3系脂肪酸の摂取に努めるのがいいでしょう。

 オメガ3脂肪酸はガン、特に乳ガンの予防にも重要と考えられています。女性ホルモンのエストロゲンが酸化することが乳ガンが発症する原因の一つになりますが、オメガ3系の脂肪酸にはそれを抑制する働きがあります。統計でエスキモーや以前の日本人は、欧米人に比べて乳ガンにかかる率が少ないことが示されています。

 ただし、食品中に含まれるオメガ3は酸化が早く、酸化された状態でとると体内の過酸化脂質を増やす結果になるので、魚を調理するときなどは新鮮なものを選んで時間を置かずに食べるようにし、保存もしっかり行うなどの配慮が必要です。